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夢アイデアコラム

第21回夢アイデアまちづくりの審査を終えて

令和6年2月

 2023年12月2日(土)にTKPガーデンシティ博多新幹線口にて、夢アイデア交流会2023(以下、交流会)が開催されました。第21回夢アイデアまちづくりには、ジュニアの部に10件、一般の部に33件の計43件の応募があり、交流会の会場では一次審査を通過したジュニアの部3件、一般の部7件の計10件の受賞者によるプレゼンテーションが行われました。交流会では、各部門の最優秀賞、優秀賞、優良賞を決めるため、審査員のほか会場にお越しいただいた皆様とオンラインでご視聴いただいた皆様が見守るなか順次プレゼンテーションが進行し、審査が行われます。交流会の会場やオンラインでプレゼンテーションをご視聴いただいた一般の皆様にも投票資格があり、すべてのプレゼンテーション終了後に自分が最も気に入った提案に投票することができます。きっと多くの皆さんがプレゼンテーションを聞きながら、ご自身の日常生活にある事象と照らし「こんなことが実現したらいいな!」と思った提案に投票してくださったのではないかと思います。

 審査の結果、今年度の最優秀賞に選出されたのは、ジュニアの部「会いたい人にあえるまち」日高瑚白(※)さん、一般の部「双方向壁面モニターによるグローバルに文化を共有できる社会」中村聡さんでした。いずれの提案も審査員の審査結果、一般の方の投票結果ともに最も多くの得点を獲得し、最優秀賞に選出されました。ジュニアの部の最優秀賞を受賞された日高(※)さんの提案は、子どもがボランティア活動などを頑張れば遠く離れてしまった方や亡くなった方のような、なかなか会えない人に会えるハガキを手に入れることができる仕組みの提案でした。この仕組みは一見するとまちづくりとはあまり関係が無いように思えますが、子どもたちがボランティア活動に積極的に参加して地域との関りを持つこと、地域と関わりを持ついきいき頑張る子どもたちが増えることにつながる可能性を秘めています。少し考えただけでも、そんな地域があれば愉しく暮らしやすいと誰もが簡単に想像できるのではないでしょうか。また、大勢の大人の前でのプレゼンテーションにも物怖じせず大きな声で、とてもわかりやすく自分の提案に自信を持って発表してくれた点も印象的でした。

 一般の部の最優秀賞を受賞された中村さんの提案は、一方は福岡市の地下街の壁面に、もう一方は世界各地の福岡市の姉妹都市の公共性の高い場所に、それぞれ壁一面を占めるような巨大モニターを設置し、各地点間をリアルタイム接続することで誰もが気軽に接続先にいる人とコミュニケーションが取れる環境を整備し、モニターに各地の文化や歴史・伝統の記録も行うことでそれらの保存・継承にも役立てるといった提案でした。様々なコミュニケーションツールが発達したことにより以前よりも気軽に国際交流が行える時代にはなりましたが、これらのコミュニケーションツールはパーソナルな利用を想定しているものが大半であるため、個人間や限定されたグループ間でのやり取りには便利ですが、不特定多数の人々での交流には少し不向きな側面があります。中村さんの提案では、まちに設置された巨大モニターに話しかけることによって誰でも気軽に接続先にいる人に話しかけることができます。モニターは公共性の高い場所に設置されていることから、偶然その場にい合わせた人々も巻き込むような形での自然で偶然的なコミュニケーションが誘発されることが予測され、大きな可能性を感じることのできる提案だと言えました。多くの人が姉妹都市の存在を知ってはいても日常生活のなかで姉妹都市との関りを感じ取れる機会は少ないと言えるでしょう。まずは既に関係のある姉妹都市と誰もが気軽に国際交流ができる環境を整備し国際感覚を身に着けた多様性への理解を持つ人が増えることが、これからの都市の暮らしには必要なのかもしれません。

 最後に、表彰式で最優秀賞を受賞した中村さんが「賞金をいただいたので、またこの賞金を使って何か(まちづくりのことを)考えたい」とおっしゃっていたことが非常に印象的でした。このように地域のことやまちづくりのことを日常的に楽しんで考えてくださる方々の存在はとても貴重で、夢アイデアまちづくりの根幹といえると思います。夢アイデアまちづくりのコンセプトは、「夢のような話を、本気でしよう」です。実際のまちづくりの場面では、多様な側面から考えなければいけない事項が数多くあり「このまちをよくしたい」や、「この地域に暮らす人々がみんないきいきできる場所をつくりたい」と思っても、なかなか簡単にはいかないことも多くあります。とはいえ、まちづくりは誰にでも関係のあることであり、一人一人がまちに関心を持ち、考え、できることから実行していくことがまちづくりの基本と言えます。したがって、まちについて考えるきっかけやまちのことを真剣に考えている人の存在を知ることのできる夢アイデアの取組は、大きな意義と価値を有していると今回改めて思い、このような取組に参加させていただけましたことを心より御礼申し上げます。




曽我部春香(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
夢アイデア審査委員(令和3年~)

※日高さんの「たか」は「はしごたか」ですが、機種依存文字のため新字体で記載しています。

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